皮膚には様々な腫瘍(しゅよう)が発生します。そのほとんどは良性腫瘍ですが、まれに悪性腫瘍(別項)もあります。 代表的な皮膚良性腫瘍は以下の通りです。その診断確定には組織検査(皮膚生検検査)が必要になりますが、ダーモスコピー(別項目)検査にてほとんどの腫瘍が診断できます。 |
■ 皮膚の良性腫瘍の種類 |
※番号別で下記に詳細を載せています。 |
表皮系腫瘍 |
@脂漏性角化症、稗粒腫(顔面によくみられる皮膚腫瘍 ) |
毛包系腫瘍 |
毛包腫、多発性丘疹状毛包上皮腫、A石灰化上皮腫瘍、毛孔腫、Bケラトアカントーマ、外毛根鞘腫 |
汗腺系腫瘍 |
Cエクリン汗孔腫、汗管腫(顔面によくみられる皮膚腫瘍 参照)、皮膚混合腫瘍 |
脂腺系腫瘍 |
脂腺腺腫、D老人性脂腺増殖症 |
神経系腫瘍 |
神経鞘腫、外傷性神経腫、E神経線維腫 |
間葉系腫瘍 |
F皮膚線維腫、若年性黄色肉芽腫、G軟性線維腫、Hケロイド、I肥厚性瘢痕、皮膚平滑筋腫、J脂肪腫 |
のう腫 |
K粉瘤、真皮嚢腫、粘液嚢腫(別項参照) |
血管腫(別項参照) |
イチゴ状血管腫、海綿状血管腫、サーモンパッチ、単純性血管腫、血管拡張性肉芽腫 |
@脂漏性角化症(しろうせいかっかしょう、別名:老人性疣贅、年寄イボ) |
病因:加齢による皮膚の老化。 臨床:全身にできるが、顔や首に最もでき易い。 |
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診断:ほとんどは視診だけで診断可能ですが、ダーモスコピーを使うことで正診率は98%以上とされます。 |
治療: @放置:気にならなければ、とる必要はありません。ただし、年齢とともに拡大、増加する可能性が高い。 A冷凍凝固:液体窒素やドライアイスを用いて腫瘍を凍らせる治療法。2週間に1度の冷凍凝固を2〜3回繰り返すと脱落する。ただし、再発する可能性もあります。液体窒素やドライアイスによって火傷させるために、痛みがあります。 B手術:完全に治す方法。 →局所麻酔(注射の麻酔)して腫瘍を切除し、皮膚を縫い合わせます。大きさにもよりますが、ほとんどは15分程度の手術でとることができます。1週間〜10日で抜糸ができます。 予防:特にないが、肥満や日光暴露でおこりやすいと言われています。 |
追)スキンタグ(Skin tag)、G軟性線維腫 |
首や脇に米粒大の腫瘤が多発することがある。これも一種の脂漏性角化症です。 |
![]() 頸部のスキンタグ
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病因:加齢による皮膚の老化。肥満傾向の人に起こりやすい。 治療: 1.放置:気にならない場合には特に治療の必要はありません。 2.クーパー(ハサミ)による切除:切除部が出血します。また切除するときに痛みがあります。 3.冷凍凝固:液体窒素にて凍らせると2〜3週間で脱落します。 |
A石灰化上皮腫(せっかいかじょうひしゅ) |
病因:不明です。毛包から発生したと考えられる皮膚の良性腫瘍です。 臨床:全身にできますが、小児では顔面、大人では四肢にできやすいのが特徴です。多くは長径2cm程度までの皮下腫瘤ですが、一部は皮膚表面に盛り上がっています。 急激に拡大するもの(水疱型)や、こぶし大を超えるようなものもあります。虫刺されの跡形と勘違いされる場合が多いようです。 |
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診断:視診と触診で診断が可能ですが、確定診断には病理組織検査が必要です。ただし、エコー検査を行うと特徴的な所見がみられます。 |
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鑑別疾患:粉瘤や脂肪腫との鑑別が必要ですが、ほとんどの場合、エコー検査にて鑑別が可能です。 治療:自然消退することはなく、小さい時期に手術するべき疾患です。腫瘍部分だけを切除するだけでいいですが、取り残しがあった場合には再発する可能性があります。 予防:特にありません。ただし、触ることで細菌感染症を起こすことがあります。なるべく触らないように気を付けましょう。 |
Bケラトアカントーマ |
病因:病因は特にありません。 臨床:急速に拡大する皮膚腫瘍で、表面は落屑や痂疲を付着することが多いドーム状腫瘤です。高齢者の顔面や手背に好発する傾向がありますが、臨床的には有棘細胞がん(SCC)と区別がつきません。SCCは皮膚がんであり、増大し続けますが、ケラトアカントーマは長径2cm程度で増大が止まり、その後自然消退することがあります。 |
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診断:視診にて診断しますが、ダーモスコピーにて表面の角質や血管像を観察すると特徴的な所見が認められます。しかしながら、臨床的にも病理的にもSCCとの厳密な鑑別は困難です。 治療:自然消退することがある腫瘍であり、経過観察する場合もありますが、基本的にはSCCを前提とした手術を行うべき疾患です。 |
Cエクリン汗孔腫(えくりんかんこうしゅ) |
汗腺由来の良性腫瘍であり、比較的稀ですが、黒色調を呈するときにはメラノーマとの鑑別が必要になります。 |
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D老人性脂腺増殖症(ろうじんせいしせんぞうしょくしょう) |
高齢者の顔面に多く認められる。皮脂(皮膚の油)を作る皮脂腺の増殖である。 診断:ダーモスコピーにて特徴的な血管像(crown vessels)を認めることで診断は容易です。 治療:基本的には治療の必要はない。液体窒素にて冷凍凝固することで薄くなることがありますが、完全には消失しません。 |
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E神経線維腫(しんけいせんいしゅ) |
皮膚に存在する神経線維のシュワン細胞より起こった腫瘍。一個〜数個の場合には加齢によっておこる皮膚の変化の可能性が高い。 |
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ただし、全身に多発するような場合には多発性神経線維腫症(von Recklinghausen病、NF-1)を疑う必要がある。 |
![]() 多発性神経線維腫症(NF-1)
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F皮膚線維腫(ひふせんいしゅ) |
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腹部の皮膚線維腫、 同ダーモスコピー像 |
病因:特になし。 臨床:皮膚の表面は褐色を呈する。つまむと圧痛(いたみ)があるのが特徴。 診断:ダーモスコピー検査にて特徴的な所見がみられます(dotted vessels, pigmentnetwork, central white patch)。 治療:大きくならないのであれば放置でいいが、急激に拡大したり、長径が1cmを超えるようなものは注意が必要。治療は、基本的には手術にて切除します。 |
G軟性線維腫 |
HIケロイドと肥厚性瘢痕 |
【病因】怪我した後に、キズの範囲が盛り上がった腫瘤が肥厚性瘢痕でり、キズの範囲を超えて盛り上がったり、特にキズもないのに盛り上がった腫瘤がケロイドである。従って、肥厚性瘢痕は誰にでも発生するが、ケロイドはケロイド体質のヒトに発生する。 人種さが大きく、アフリカ系のヒトは基本的にケロイド体質であり、ヨーロッパ系にはほとんどケロイド体質のヒトはいない。日本人では、ケロイド体質のヒトは10%程度と言われています。 【臨床】皮膚から盛り上がった腫瘤であり、キズの範囲に留まるものを肥厚性瘢痕、キズの範囲を超えて盛り上がったものがケロイドです。好発部は、前胸部と肩ですが、最近はピアスをする人に起こる。ピアス肉下腫→ケロイドの患者さんが増えています。 |
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![]() 【診断】視診で診断します。
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【治療】 @副腎皮質ホルモン外用 ステロイド外用はケロイドの痒みに対しては有効ですが、盛り上がりに対してはあまり効果的ではありません。ただし、ステロイド含有テープ剤を貼付すると消退する場合もあります。 A副腎皮質ホルモン注射 ケロイド部分にステロイド懸濁液を局所注射することでケロイドの縮小効果が認められます。 B圧迫療法 ケロイド予防に対しては効果的です。テープやシリコン膜(シカケア)をケロイドの部分や傷の部分に貼付して機械的に圧迫を加えることで予防します。ただし、外傷後6カ月〜12カ月の治療が必要です。 Cトラニラスト内服 ケロイド予防に効果が認められる唯一の内服薬です。 D手術 キズの方向を変える形成術などを行うことはありますが、手術することで反対にケロイドを拡大させることもあります。 E放射線療法、レーザー療法 |
K粉瘤 |
【病因】不明です。皮膚表面の部分(表皮)が真皮内で増殖して嚢腫(ふくろ)を作ります。内部に角化物質(皮膚の老廃物)が溜まっています。 【臨床】全身にできますが、顔面と背中にでき易い。母指頭大の物が多いが、時にはソフトボール大くらいになることもあります。また、人によっては多発することがあります。 【診断】ほとんどの粉瘤は視診だけで診断できますが、エコー検査を行うとより確実になります。 |
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【治療】 (1)放置:気にならなければ、切除する必要はありません。ただし、徐々に大きくなることが多く、細菌感染がおこると膿が出て、痛みを伴います。 (2)手術:完全に治す方法です。局所麻酔(注射の麻酔)して腫瘍を切除します。腫瘤の大きさにもよりますが、10〜15分程度の手術です(要予約)。 (3)ただし、化膿した状態では手術はできません。 |
![]() 感染性(炎症性)粉瘤
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内部の角化物質に細菌が感染して化膿した状態です。その場合には痛みを生じますし、炎症が拡大した場合には発熱することもあります。化膿した感染性粉瘤は1回の手術では治せないことが多く、その場合には腫瘍部分に切開を入れて、内部の角化物質を出し、化膿が落ち着いた後で腫瘍を切除するようにします。 |
L指趾粘液嚢腫(ねんえきのうしゅ)、ガングリオン |
臨床および病因:指趾の背側に生じる長径10mm程度までの皮下腫瘤。内部に粘液(ムチン)を容れるため、指趾関節より生じた関節ヘルニアとする説と異所性に滑液膜が発生したという説があります。指趾背側以外に発生し、より大型のガングリオンについては、周囲の関節腔より生じた関節ヘルニアの場合がほとんどです。痛みや痒みは無く、外傷に続発することがあります。 |
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【治療】 @放置:気にならなければ、切除する必要はありません。 A内容液の穿刺吸引および圧迫:内部の粘液を注射器で吸引し、その後局所性に圧迫する。これを繰り返すことで嚢腫部分が周囲と癒着して治癒する可能性があります。 B冷凍凝固:液体窒素を用いて腫瘍を凍らせる治療法です。2週間に1度の冷凍凝固を2〜3回繰り返すと腫瘤が脱落する可能性があります。ただし、後日、再発する場合もあります。 C手術:完全に治す方法ですが、指趾の背側に生じるために、スペースが無く、縫い合わせることが困難で、植皮や皮弁形成を必要とする場合があります。 |
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